白石資朗法律事務所

子どもに教える憲法

憲法の根っこを教える、読解問題です。

 

 人間は、一人では生きていくことができません。
 だから、社会をつくります。
 食べ物を作る人、洋服を作る人、家を建てる人、子どもに勉強を教える人、みんなが、自分の役割を持って、協力しあうから、みんなが、家に住み、洋服を着て、食べ物を食べることができます。
 ただ、道路を作ったり、公園を作ったり、海や川があふれないように堤防を作ったりすることは、お金がかかりすぎるので、普通の人には、なかなかできないことです。そこで、みんなが国に税金をおさめ、国は、その税金で、みんなのために、道路や公園、堤防などという、国の設備を整えます。
 これを「行政」といいます。総理大臣は、「行政」の一番、上にいる人です。
警察が犯罪者を逮捕することも「行政」のひとつです。
 国の働きには、そのほかに、人々の争いを解決したり、警察が逮捕した人が有罪かを判断したりする「司法」、法律を決める「立法」という働きがあります。裁判所は、「司法」を行い、国会は「立法」を行います。わが国の政治家は、選挙で当選して国会議員になり、総理大臣は国会議員のなかから任命されます。つまり、政治家は「立法」と「行政」を行います。
 ところで、昔は、王様(日本でいえば、朝廷や幕府)が、「行政」も「司法」も「立法」も、好きなように行っていました。
 道路を作ったり、宮殿やお城を作ったりするのにお金がいるからといって、人々が満足に生活できるかどうかを、あまり考えることなく、税金の金額を決めていました。もちろん、あまり高すぎる税金にすると、反乱が起こったり逃げたりするので、王様も、反乱したり逃げたりしない程度には考えていたはずです。でも、「反乱したり逃げたりしない程度」のお金が手元に残っても、幸せに生活することはできません。
 「司法」も、王様に都合の悪い判断はしませんし、「立法」も、王様に都合の良い法律しか作りません。
 結局、ヨーロッパでは革命が起こって、王様を国から追い出してしまったり、王様の力を制限する取り決めをしたりしました。
 どうして、王様は好き勝手にできたのでしょうか。
 それは、王様が、警察や軍隊を、自分の思いどおりに動かすことができたからです。また、王様が、なにもかも決めることが正しいことだという考えがあって、みんなが納得していたからです。ちなみに、現在でも独裁国家がやっていることは、王様がすべてを決めていた時代にやっていたことと同じようなことです。
 王様の時代を経験して、人々は、誰かにすべてをまかせてしまうことが、とても危険なことだと考えました。
 だから、国の権力を、「立法」と「行政」と「司法」の3つに分けました。
 また、国の権力を使っても、奪うことのできない、人々の権利を定めました。神様を信じる権利、ものを考えたり表現する権利、理由なく逮捕されない権利などは、すべて、奪うことのできない権利です。

 そして、このような国のあり方や、人々の権利を定めた法律が、「憲法」なのです。
 日本も、明治時代になって「憲法」をつくりました。ただ、この憲法は、人々の権利を、法律の定める範囲内で保障するという内容になっていました。つまり、国会がさだめた「法律」で、ものを考えたり表現する権利を奪うこともできたのです。だから、政治家たちは、自分たちにとって都合の悪いことをいう人を逮捕することができましたし、必要なときは、財産を取り上げることもできました。天皇陛下の悪口をいう罪(不敬罪)もありました。
 第二次世界大戦に負けてつくられた現在の憲法は、人々の権利を、奪うことのできない権利と定めました。「一人一人が、人として大切にされる権利」を中心におき、「行政」や「立法」や「司法」が、勝手に人を逮捕したり、裁いたり、財産をとりあげたりできないように、いろいろな決まりをつくりました。今の日本国憲法は、日本人一人一人の権利を守るように、国のありかたを決めているのです。
 一人一人の権利を守るということは、一人の人が、多くの人の意見と対立したとしても、その人の権利を守るということです。憲法は、単純な多数決によって、この枠組みが変えられることのないよう、憲法改正の条件を厳しくしました。国会議員の3分の2が賛成して改正案を提案し、国民の過半数がその改正案に賛成したときに限って、憲法を改正することができるようにしたのです。
 この憲法改正の条件を変えてしまって、憲法改正をしやすくしてしまえば、もしかしたら、戦前のように、人々の権利を法律の定める範囲内で保障する、つまり、立法が決めてしまえば、都合の悪いことを言っただけで逮捕するとか、財産をとりあげることができるようになってしまうかもしれません。
 そんなことはしないだろうって?
 そうかもしれません。でも、世界の歴史は、教えてくれます。国の権力を握った人々は、必ず、人々の権利を奪います。人々から自由を取り上げ、財産を取り上げ、命を取り上げます。そのようなことができないように、人々が考え出した安全装置が、憲法なのです。
 国を信用することは危険だと、世界の歴史が教えているのです。
 そういえば、「どうして、犯罪者の権利が守られるのか。」という疑問に対しても、同じように答えることができます。国が勝手に人を逮捕して、裁いたりできないように、また、犯罪者であっても、犯した犯罪に見合わないほど重い刑を課したりできないように、憲法が「行政」と「司法」を縛っているからなのです。これが、「犯罪者の権利」と言われるものなのです。

 

問題
1、国の権力を、3つ、書きなさい。

 

 

2、奪うことのできない人々の権利の例を、本文から3つあげなさい。

 

 

 

3、現在の日本国憲法の中心となっている権利は、どのような権利ですか。

 

 

 

4、「どうして犯罪者の権利が守られるのか」理由を書きなさい。


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